34 キャリブレーションについて
34.1 はじめに
赤外線カメラのキャリブレーションは、温度測定において必須の作業です。キャリブレーションを行うことにより、入力信号とユーザーが測定する物理量の関係が決まります。しかし、広く普及し頻繁に行われているにもかかわらず、「キャリブレーション」という用語はしばしば誤解、誤用されています。国や地域の違い、また誤訳による問題がさらなる混乱の原因となっています。
不明確な専門用語を使用することにより、意思伝達の問題や誤った翻訳につながるおそれがあります。これにより不正確な測定結果を招き、最悪の場合には訴訟に発展する場合もあります。
34.2 定義: キャリブレーションとは
国際度量衡局
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は
キャリブレーション
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を以下のように定義しています。
an operation that, under specified conditions, in a first step, establishes a relation between the quantity values with measurement
uncertainties provided by measurement standards and corresponding indications with associated measurement uncertainties and,
in a second step, uses this information to establish a relation for obtaining a measurement result from an indication.
キャリブレーションは、報告書、校正関数、校正線図、
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校正曲線、
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または校正表などの異なる形式で表されます。
多くの場合、上記の第一段階の定義のみが認識されて「キャリブレーション」と呼ばれていますが、この定義だけでは十分ではありません。
赤外線カメラのキャリブレーション手順では、第一段階において放射される熱 (量値) と電気出力信号 (指示値) との関係が確立されます。このキャリブレーション手順の第一段階では、持続的に安定した熱源の前にカメラを配置した状態で等質の (または均一な)
応答を得る必要があります。
第二段階では、熱を放射する基準の温度がわかっているため、取得した出力信号 (指示値) を基準の熱源の温度と関連付けることができます (測定結果)。この第二段階には、ドリフトの測定と補正が含まれます。
正確に言うと、赤外線カメラのキャリブレーションは厳密には温度では表しません。赤外線カメラは赤外線に敏感であるため、最初に放射量の対応関係を取得し、次に放射量と温度を関連付けます。研究開発関連以外のお客様が使用するボロメーター カメラの場合は、放射量は表されず、温度のみが提供されます。
34.3
FLIR Systems
でのカメラ キャリプレーション
キャリブレーションをしないと、赤外線カメラは放射量または温度のいずれも測定することができません。
FLIR Systems
では、測定機能付き非冷却式マイクロボロメーター カメラのキャリブレーションを、製造および点検時に行います。光子検出器を搭載した冷却式カメラは、多くの場合、特別なソフトウェアを使用してユーザーによりキャリブレーションされます。理論的には、このタイプのソフトウェアを使用すれば、一般的なハンドヘルド非冷却式赤外線カメラをユーザーがキャリブレーションすることもできます。しかし、このソフトウェアはレポート用途には適していないため、ほとんどのユーザーには提供されていません。また画像形成にのみ使用される非測定装置には、温度のキャリブレーションは必要ではありません。このことは、赤外線カメラや熱画像カメラとサーモグラフィー
カメラを対比する場合のカメラ関係の用語定義においても適用され、後者は測定装置とみなされます。
キャリブレーションが
FLIR Systems
またはユーザーにより実行されたかどうかにかかわらず、キャリブレーション情報は、数学的な関数で表される校正曲線として保存されます。対象物とカメラの間の温度と距離により放射量の強度が変わると、異なる温度範囲と交換式レンズに対して異なる曲線が生成されます。
34.4 ユーザーが実行したキャリブレーションと
FLIR Systems
で直接実行したキャリブレーションの違い
まず、
FLIR Systems
が使用する基準熱源はそれ自体がキャリブレーション済みで追跡可能です (トレーサビリティがあります)。つまり、キャリブレーションを実行している
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のすべての部署では、熱源が独立した国家機関によって管理されていることを意味します。カメラの校正証明書は、このことを確認したものです。これにより、
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によりキャリブレーションされたことだけではなく、キャリブレーションされた基準を使用してキャリブレーションされていることを証明しています。認定された基準熱源を所有しているか、使用できるユーザーもいますが、その数はごくわずかです。
次に、技術的な違いがあります。ユーザーがキャリブレーションを実行すると、常にではありませんが、多くの場合ドリフトを補正した結果が得られません。これは、カメラの内部温度が変化する場合に生じるカメラの出力の変化が値に考慮されていないということです。この結果、大きな不確実性が生じます。ドリフトの補正では、温度と湿度が調節された室内で取得されたデータを使用します。すべての
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製カメラは、お客様に納品されたとき、および
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サービス部門で再キャリブレーションされたときに、ドリフトが補正されます。
34.5 キャリブレーション、検証および調整
よくある誤解として、キャリブレーションを検証や調整と混同することがあります。たしかに、キャリブレーションは特定の要件を満たしていることを確認する検証のための必須の作業です。検証は、所定のアイテムが特定の要件を満たしているという客観的な証拠を提供する作業です。検証を行うには、キャリブレーションされ、追跡可能な基準熱源から指定された温度 (放射される熱) を測定します。そして偏差を含む測定結果が表に記録されます。検証証明書には、これらの測定結果が特定の要件を満たしていることが明記されます。場合によっては、企業や団体はこの検証証明書を「校正証明書」として提供および販売することがあります。
有効なプロトコルが考慮されている場合のみ、適切な検証 (および延長のためのキャリブレーションまたは再キャリブレーション、あるいはその両方) を行うことができます。このプロセスは、カメラを黒体の前に置いて、カメラの出力 (例: 温度) が元の校正表と対応するかどうか確認するだけでは不十分です。多くの場合、カメラが温度だけでなく放射量にも敏感であることが忘れられがちです。さらに、カメラは画像化システムであり、単なるセンサーではありません。したがって、カメラによる放射量の「収集」を可能にする光学的配置が不十分であるか位置がずれていると、「検証」(またはキャリブレーションもしくは再キャリブレーション) は無駄になります。
たとえば、迷光放射や熱源の面積効果を低減するために、黒体とカメラの距離、および黒体の空洞の直径を選択する必要があります。
要約すると、有効なプロトコルは、温度の物理法則だけではなく、放射量の物理法則にも従う必要があります。
キャリブレーションは、調整のための必須の作業でもあります。調整は、測定対象の量値 (通常、測定標準から取得されます) に対応する規定の指示値が得られるように、測定システムに対して行われる一連の操作です。簡単に言うと、調整とは仕様の範囲内で計器から正確な測定結果を得るための操作です。多くの場合、測定装置の「調整」が「キャリブレーション」という用語で呼ばれています。
34.6 不均一性補正
赤外線カメラに [キャリブレーション中... (校正中...)] と表示されている場合は、各検出素子 (ピクセル) の応答の偏差を調整しています。サーモグラフィーでは、これを「不均一性補正」(NUC) と呼びます。これはオフセットの更新であり、ゲインは変更されません。
欧州規格 EN 16714-3 Non-destructive Testing—Thermographic Testing—Part 3: Terms and Definitions では、NUC を「検出素子の感度の変動や他の光学的および幾何学的な障害を補正するためにカメラのソフトウェアによって行われる画像の補正」と定義しています。
NUC (オフセットの更新) の実行中、シャッター (内部フラグ) が光学経路に配置され、すべての検出素子がシャッターから発生する等しい放射量に曝されます。これにより、理想的な状況では、すべての検出素子から同じ出力信号が得られます。しかし、各検出素子の応答が異なるため、出力は均一にはなりません。そこで、理想的な結果からの偏差が計算され、これにより画像補正が数学的に実行されます。つまりこの画像補正により、放射量信号の表示補正が行われるということになります。カメラによっては、内部フラグがない場合があります。この場合、特別なソフトウェアと外部からの均一な熱源を使用してオフセットの更新を手動で行う必要があります。
NUC は、たとえば起動時や、測定範囲を変更した場合、または環境温度が変化した場合に実行されます。ユーザーが NUC を手動で開始できるカメラもあります。このような機能は、画像の障害をできるだけ抑えたい重要な測定を行う場合に役立ちます。
34.7 熱画像調整 (温度同調)
より詳しく調べるために画像の温度コントラストと輝度を調整することを「画像のキャリブレーション」と呼ぶ人もいます。この操作では、関心がある温度のみを (または主にその温度を) すべての使用可能な色を用いて表示するように温度の間隔を設定します。この操作は正確には「熱画像調整」または「温度同調」と呼ばれます
(もしくは「熱画像の最適化」と呼ぶ場合もあります)。この操作は手動モードで実行する必要があります。手動モードにしないと、カメラにより温度の表示間隔の下限と上限が視野の最低温度と最高温度に自動的に設定されます。